Skip to main content

長場雄 × 渡辺真史 映画をテーマに構成されたカプセルコレクションついて聞く

長場雄 × 渡辺真史 映画をテーマに構成されたカプセルコレクションついて聞く

国内外で精力的に個展を開催し作品を発表するにとどまらず、様々なブランドとのコラボレーションや国民的お菓子のパッケージなども手がける日本を代表するアーティスト・長場雄。どのような経緯で今回の企画が始まったのか、ディレクターの渡辺真史と語る、 BEDWIN & THE HEARTBREAKERSとのコラボレーションについて。

 

知られないと何も始まらない

 

渡辺真史(以下、MW) : この前、若いデザイナーやクリエイターと会って気になったのは、みんなが一人で作業していたこと。昔だったら、分担しながらみんなでやってみようかって感じだったよね。それに対して今はツールが発達しているから、一人でできてしまう。それが面白いなって。それはデザイナーもそうだし、音楽をやっている人たちもそう。やっぱり最近は一人で始められることが増えているんじゃないかな。でも一人で行動する勇気というか、決断というものがアーティストの素晴らしい点で、憧れてしまうよね。

 

長場雄(以下、YN):今の子たちは動画編集も普通にできますもんね。ちゃんと最後の絵まで見えているんだなって思います。

 

MW:要するにマルチタスクで自分で完結する。その中でもアートは自分と向き合う、社会と自分と向き合う一つの活動。僕が美大に行っていた時、アーティスト志望の子たちは、気付けば打ちひしがれて広告代理店に入るという子をよく見かける。

 

YN:そもそも絵で食っていくのは難しい時代でしたよね。

 

MW:最初はイラストレーターから始めたんでしょ?

 

YN:そうですね。今もクライアントワークは受けています。

 

MW:クライアントワークをしつつ、自分の作品も作る訳じゃない。そこの境界線って何があるの?

 

YN:それは模索中です。やっぱり難しいですよね(笑)。

 

MW:これは僕の想像だけど、一枚の絵で自分の価値を積み上げるやり方と、たくさんの絵を人に見て楽しんでもらって、価値を見出すやり方があるんじゃないかなと思うんだよね。最近カップスターをやっていたでしょ。その作品を見たとき、僕はワクワクした。何百人、何千人、何万人があれを手にして食べる。それってアートに触れていることだと思うし、一枚の絵だと展示会やギャラリーに置かれて、期間もある。それ以降は買った人しか見れない。そのギャラリーに置かれている絵の価値とカップスターの絵の価値って意外と近いところにあるんだなと思ったんだよね。あとはそれに対して数字的な価値がどうついていくか。絵ってタダでも渡せるけど、一億円で買う人もいる訳で。

 

YN:絵の場合は価値を決めるのが本当に難しい。そもそもクライアントワークにしても知られないと何も始まらない。だけど、安売りっぽく見えてしまってもダメだし。そこのコントロールが難しい。例えば、KAWSは本当に上手いと思う。マスにも受けていて、アートピースとしても値がついている。

 

MW : 今のスタイルはいつからやってるの。

 

YN:2014年ですね。八年前です。

 

MW:かなりのストロングスタイルだよね。他の人が描いた近しい絵を見たら全部長場さんの作品って思っちゃうもん。そのくらいフラッグを置いたと思うし、例え偽物が出たとしても本物との差が出る。このスタイルを確立させるのは中々難しいと思うけれど、チョイスするモチーフも含めて素晴らしいと思った。嫌な線が一つもないんだよね。シンプルなものだから削ぎ落とされてるし、表現をするのに最低限の線を使っている潔さを感じるんだよね。でもちゃんと雰囲気が出ていて、同じ世界にいる登場人物のように見えるから引き込まれるよね。

 

YN:あまり定型化、パターン化させないようにしています。少しずつ変えて見せられればバリエーションも増える。同じ形のが増えるとスタンプみたいになってしまうので、飽きさせないように心がけています。

 

 

MW : 実は僕たちは2004年頃、同じビル内にいたんです。BEDWINをやる前の話だね。何階にいたの?

 

YN:29歳の時ですね。確か四階だった気がします。何号室かは二十年前だから覚えてないですが(笑)。エレベーターは一つしかなかったから、お会いしたり展示会にも伺ったり。

 

MW:いつもニコニコしているから、すごく好印象な人がいるなとは思っていたけど、こっちは洋服屋でバタバタしていたね(笑)。グラフィックの仕事場として拠点を構えていた頃?

 

YN:そうです。友達三人と一部屋を借りていました。

 

MW:三人で一部屋借りるって、今考えるとすごいよね。下積みといえば下積みだよね。でも楽しい時期。

 

YN:そうですね。当時Tシャツ屋さんで働いてたんですけど、ある時会社のためにやるのが嫌になってきちゃって(笑)。自分で何かやりたいと思った時に、場所が欲しいなと思ったら、そこが出てきて。渋谷にそういう場所があったら、夜遊びもできるし楽しいかなと(笑)。だから当時は会社にも行きながら拠点を構え、夜は遊んでいました。行ったり来たりしていましたね。部屋を借りてすぐ会社を辞めることになっちゃったので、割と昼間もいるようになりました。

 

MW : あそこに何年いたの?

 

YN:四年いましたね。そこが取り壊されることになったので、近くに引っ越しました。

 

MW:僕は取り壊される何年か前に出ていっていたけど、部屋は借りててうちで働いていた人に貸したり、若い子たちが使えるようにしていたかな。全部で四部屋借りてた(笑)。

 

長場さん:確かに当時、べべさんいつも綺麗な外国人といて、すごいなって思っていました(笑)。IDEEの黒崎さん周りの人がいたり、面白い人が揃っていましたよね。

 

MW:アーティストやクリエイター向けに安く貸して、内装を綺麗にしたいっていうのがあったみたいで。今のワーキングスペースの走りみたいな感じだよね。当時の顔馴染みが20年弱の時を経て、こうして話しているのって不思議だよね。ファッションはトレンドベースなところがあるけど、アートはどうなの?

 

YN:アートにもトレンドはあるんじゃないですか。僕自身、生き残るためにはどうすればいいかと作戦を考えることはあります。 請負より発信していかないとという意識はあるので。クライアントワークだけではどうしても請負の要素が強くなってしまう。そうならないためには個展や自分ベースでできるものを通じて、何か提案することは常に意識しています。アパレルブランドは基本自分ベースでやっているものですよね?

 

MW:そうとも言えないかな。やっぱりアパレルって領域としてはアートとは違ってデザインだから、他者に対して何を投げ込むかをすごく考えないと残っていけないと思っていて。

 

YN:他者というのは?

 

 

MW:セレクトショップや着てくれるお客さんもそう。ポジショニングが大事なのと、やっぱり格好良いから売れるということでもなくて。伝えたいことがしっかりないとブレていくとは思う。アートの世界においても、新しく出てくる人もいればいなくなる人もいる。新しい作風やムーブメントはあると思うんだけど、今の日本はアートがムーブメントの中にいるよね。時代的に盛り上がっている。こんなに日本からアーティストが出てくるようになったのは面白いなと思う。ニューヨークでも2000年代初頭にそういうムーブメントがあったように、時代と場所がピッタリはまるとそこからたくさん生まれるんだよね。他のアーティストとは仲がいいの?

 

YN:仲良いですよ。同じギャラリーの人とはもちろん仲良いですし、みんな優しいですね。トゲトゲした人があんまりいないです(笑)。

 

MW:それが今のアートシーンの特徴の一つなのかもしれないね。そうじゃないと成功できないんだと思う。穏やかだけど深く考えるっていうのが特徴なのかも。トゲトゲしてしてなく排他的じゃない、ウェルカムな感じ。

 

YN:確かに排他的ってなくなりましたよね。僕らの世代だと排他的なイメージが強いから。大人に対して抵抗するみたいな。

 

MW:本当になくなったね。やっぱり社会とコネクトしていく考え方が昔と違うよね。

 

YN:違いますよね。今は社会とコネクトしてなんぼというか、そこからが始まりですもんね。

 

MW:僕からすると逃げることはできないから、それだったら仲良くしちゃった方が良くないっていう。そうじゃないなら東京にいるべきじゃない、みんなに喜んでもらえる服を作りたいだけなんで。

 

YN:確かに辻褄が合わなくなりますもんね。

 

MW:何かを創り出す時、怒りがパワーになる時もある。だけど、僕の仕事に対してのモチベーションは、みんなと分かり合いたいなっていう気持ちが強いかな。今回のプロダクトも、その考え方をもとにお願いしました。何か甘酸っぱい気持ちをね(笑)。

 

YN:そうですね。青春時代に好きだったものは二人とも一致しますもんね。やっぱりスピルバーグの映画が大好きで、グーニーズみたいに若者が親から反抗して自分たちで冒険出るみたいな。自分たちの価値観で動くところが特に好きです。

 

MW:世代間の共有を大事にしたいというのが、今回のプロジェクトに繋がったんじゃないかな。ただ単純に有名なアーティストってだけだと僕もお願いしづらいし。お互いに「あの時の!」みたいなのが必要だよね。宮下パークのSAIギャラリーの個展の時もDAYZの隣だったしね。地理的要素もあれば、心情的交わりも近いところにあったけど、今までプロジェクトを一緒にすることはなくて。ただ物理的に距離が近いだけというか。でも、一度口をひらけばそこからはスムーズ。何であそこに行ったか、何であそこでだったかという思考回路がアウトプットは違うにしても近いんだろうね

 

MW:嗅覚が似てるってことですね(笑)。

 

MW:映画の話をしたときに、自分たちのカルチャーボキャブラリーが似てるから、世間話をして仲良くなる必要はないというか。今回のコラボレーションが決まった時、テーマが映画になったのって僕らの分かることで、みんなにも分かることを考えた時にいくつか案が出て、どんどん絞っていったら映画になった。そこから長場さんの方から提案をいただいて、それで行きましょうって。

 

YN:映画を選ぶ時に迷いが出ちゃうので。それなら日曜日にやっていた某番組を参考にして映画全体を網羅しちゃおうって。

 

MW:知っている世代の人にとってはすごく懐かしくもあり、一方で知らない若い世代は誰だよ、このおじさんってなると思う。だけど、そこから興味を持ってもらうことが僕たちの世代でやっていくべきことなのかな。僕の中では世代に対しての何かしらの引き継ぎ作業だと思って。淀川さんのことを知って、映画を楽しむことはカルチャーを掘ることとしては面白いなっていうか。彼の功績って僕たちは見てきたから、それがすごく面白かった。

 

YN:今の映画を観ていても、あの時代のオマージュ的なものが多いなって印象を受けますね。最近の映画って、リブートものが多いなと感じていて。それってあの時観ていた人たちを喜ばせたいものが多いのかななんて思って。

 

べべさん:理由としてはいくつかあると思うけど、何といっても作品として良かったんだと思う。アイディアも良かったし、バジェットが映画にすごく流れていた時代だったから、様々なことをトライできる時代だった。その後に無駄が省かれて、すごくシンプルなものが増えていった。でも逆にあの頃の作品は無駄が多かったから面白かったよね。

 

YN:確かに間伸びしちゃってるシーンがあったけど、そこが面白かったりとか。

 

MW:莫大な予算なんだけど、その分作った人たちの想いが映画に出ていたんじゃないかなって思うよね。だからギミックもそうだし、色んなディティールが見えてくるから、その時の作品って今観ても面白いと思う。それで若い人やオタクの人がリブートしているんじゃないかな。洋服のアートワークから映画の話になったら嬉しいね。「このおじさん誰だっけ?」ということから始まるとは思うけどね(笑)。今回のコンセプトもリラックスした部屋着のような感じなので、映画を楽しむみたいな。

 

YN:ネットフリックス観ながら着てほしいですね(笑)。

 

 

 

Profile

長場雄

アーティスト。1976年東京生まれ。

シンプルなラインのみで描かれた作品で知られる。国内外での作品発表やアートフェアへの参加など、アーティストとしての活動を行う他、広告やアパレルブランドとのコラボレーションなどでも活躍している。

Credit

Interview & text : Yu Yamaki

Photography Ryutaro Izaki

CART

Your cart is currently empty.
Click here to continue shopping.
リストに登録しました Thanks! We will notify you when it becomes available! The max number of items have already been added There is only one item left to add to the cart There are only [num_items] items left to add to the cart